5回目の会社の現状を考える会では、テレビ会議システムが設置されていた。遠方の店舗の有志メンバーも資料を共有しながら議論に参加することができた。
「平野さんが稟議の添付資料を書いてくれました。投資対効果もきちんと書いてね。山本本部長が承認してくれたし、専務も社長も一発OKでした」
「水戸さん、どんな手品を使ったんですか!? 情報システム部が協力的だなんてビックリです」
特に本社の有志メンバーが驚いていた様子だった。
「まあ、それはいいとして、会社が変わることを後押ししてくれるってことが、これでわかりましたね。小さいけど大きな一歩だと思います」
メンバーたちの議論はますます賑やかになっていった。事態は変えられるという事実を目にしたことは大きかった。5回目の検討会が終わるころ、問題の洗い出しと整理、それぞれの問題の原因が記入された表が完成したいた。酒井がうまくリードし、営業の石沢が話をうまく展開した。工事管理課の佐倉主任と町田店営業事務の石井の二人の女性が会議の雰囲気を明るくしていた。さらに、加瀬のドキュメンテーション能力が議論の方向性をきっちりコントロールしている。うまい具合の役割分担が出来上がっていた。全員が床井とのランチミーティングのメモで水戸が赤線を引いた発言者だった。
水戸がひとつだけ質問をした。
「だいぶうまく整理できましたね。さすが皆さんだ。特に議論のまとめ方が大変すばらしいですよ。けど、ひとつだけ質問です。この問題というのは、放っておいたらどういう事態を引き起こすんでしょうか? なぜ問題だと言えるのかを深掘りすることは可能でしょうか? 可能であれば会社全体の視点で考えてみたいですね」
「そうですね。私もメモを書いていてそう考えていたところでした」加瀬が言った。
「じゃあ、お菓子ばかり食べてないで先に言ってよね。もう」
佐倉が加瀬の近くにあったお菓子を取り上げると、その場が和んだ。
「佐倉さんの差し入れですよ、それ。おいしいですね」
「あんた、人の話聞いてる? ちゃんとメモしておいてよね」
佐倉はいわゆるバリバリタイプの女性だ。すらっとした高身長で年下の女性にも男性にも憧れの存在である。入社6年目で加瀬よりも2年先輩にあたる。太陽リフォームには完全なる男性社会であり、まだ女性管理職はいない。女性の主任が3人いるだけで、佐倉はその一人だった。
「大丈夫です。口と手は別々に動くんです」
確かに既に「引き起こす更なる問題、なぜ問題だと言えるのか、その基準・視点」という言葉が挿入された表がプロジェクターに映し出されていた。
「あはは、佐倉さんと加瀬君のやりとりは和むよね。水戸さんから宿題も出たし、今日はこのへんにしようか?」
6回目の会議が終わったときには、会社の問題が様々な視点でうまくまとめられていた。さらに問題の原因を紐解いていった結果、メンバーたちが重要だと思える問題がいくつか書き出されていた。
「個人の認識していた問題で特に風土にかかわる部分を、業務フローに従って関連づけていくことで、問題の本質をまとめることができました」
そう話しながら、加瀬が1枚の大きな模造紙を机の上に広げた。そこにはいくつもの付箋が貼られていて、それが良く見ると5つに分類されてまとまっている。それぞれのまとまりの部分には、こう書かれていた。
1 部署間の情報の隔たりが業務の流れを止めている
2 「このままでいい」という空気に支配されている
3 「部署が存在するため」の仕事が多い
4 営業&工事の情報が共有されていない
5 本社スタッフの能力及び成果を測定できる方法&基準がない
「これが解決できれば、この会社はいい方向に変わっていくってことね」
佐倉が気合十分と言った感じで腰に手を当てた。
「できなければ、これから先も変わらないってくらい重要な問題です」加瀬が応えた。
「うん、シンプルだけどここが肝だと思う」酒井が続けた。
これまでは自分の立場でのみ問題を認識してきたメンバーたちが、他の人の話を聞いてそれを一緒に考えることで、会社として何が起こっているのかを理解することができた。それにより全員が会社を俯瞰して見ることとなり、認識する問題の大きさがより大きくなることとなった。
模造紙を見つめるメンバーたちの顔つきから、水戸はひとつのことを容易に想像できた。本気で重ねた議論が、メンバーたち自らの中に危機感を生み出していることを。そしてその危機感こそが次なる新しい行動を生み出す原動力だということを、きっと床井は理解しているのだろう。
だからこそ現場の有志に問題をまとめさせたのだ、水戸はそう思った。今このメンバーたちが何かをやりだすのであれば、太陽リフォームに新たな行動が生まれることになるかもしれない。そうして今後10年の成長の基礎になる風土ができあがるだろう。同時に水戸は想像を膨らませながら、経営コンサルタント時代に学んだ教訓を思い出していた
<組織の風土は組織の行動の結果だ。継続した行動なくして風土は定着しない>
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