企業変革 連続小説 「Break your shell」 07

■隠れた風土

翌週金曜日の20時過ぎ。さすが名乗りを上げて参加しているだけあって、会社の現状を考える会の議論は活発だった。2回目の検討会は、活気の塊そのもののような気がした。
水戸があれこれ言うまでもなく、参加者全員がお互いの意見をぶつけていた。
「状況の確認のために、店舗の営業事務に電話をかけて確認するんですけど、結局営業や工事担当が店舗に戻ってくる夕方までわからないんですよ」
「そもそもその状況確認って、上司の『そういえばあれどうなってる?』の質問に応えるための確認でしかないよね」
「ひとつの案件のことを理解するのに、本社の中では営業管理課、工事管理課の2つの部署に聞かないとならない。例えば受注残の確認なんて両方から数字もらって、手計算している状況です」
「その情報って、結局営業事務さんから貰っているんでしょ? 営業事務さんの負担多くないですか」

テンポよく会話が続く。
「『品質一番』ってホームページでアピールしているけど、そもそもうちの品質って何をどう定義しているのかわからない。お客様から問い合わせ受けたこともあります」
「そういえば、直接のクレームじゃないんだけど、隣人から紹介を受けて同じ工事をしてもらったのに、なんか仕上がりが隣人と違うという話がありました。工事担当に確認したら使う業者が違っていたので当然だと言っていたのですが、お客様には説明のつかない理由だと思います」
「工事主任によって品質の基準が違うんですよね。私は店舗異動を3回経験してるからよくわかる」
「基準かぁ。確かにそうですよね。工事もそうだけど、毎月の受注目標もなんとかならないかな。成績の悪い営業が切羽詰まって怪しい発注書を上げてくるんだけど、そういう人って月初にキャンセルが多いんだよ」
水戸がランチミーティングで聞いていた内容と同じ話もあったし、さらに深く突っ込んで原因を追究しようとする議論もあった。

およそ6年前に太陽リフォームへ転職してきた水戸は、入社以来いくつかの社内プロジェクトにオブザーバーとして参画することがあったものの、メインの業務は社内の業務監査を担当していた。監査のために、本社内はもちろんのこと全国の店舗を何度も回る。おかげで会社全体の業務の流れ、現場が何を問題として認識していて、会社としても何が課題かも知ることができた。現場の人間に触れるうちに業界の専門用語を随分覚えたし、会話も問題なくできるようになっていた。前職は、中小企業向けにオンサイトで経営者とともに様々な問題解決を行う経営コンサルティングを10年行い、その経験を買われて太陽リフォーム社内の業務改善を託されることとなった。

水戸は経営コンサルタントとしての現場で数え切れないほどに会議を行い、その中で、「うまい会議」を行う会社は大抵業績もいいという法則がありそうだということを過去に感じていた。しかし、成長が停滞している太陽リフォームではあったが、目の前で行われている会議の様子を見る限り、今後の成長を期待できそうな雰囲気が無くもないと思っていた。

今ここで行われている会議を客観的に見て水戸が「うまい会議」だと感じたのは、会議の目的がはっきりしている、話の内容に冗長が無い、の2点だった。その理由を探るには1秒もかからなかった。加瀬がプロジェクターに写しながらパソコンでメモをとっていたのだ。メモの頭には、
○今日のテーマ 日頃気になる問題点の洗い出し
○ゴール どんな問題があるのかについてメンバーで共有理解を持つ
○時間 18時30分~20時30分まで
と、書かれており自然とメンバー全員がそのメモを見ながら話を進めている。さらに加瀬は、メンバーが話をするたびにその内容を素早くメモしつつ、「カテゴリ」を付加して発言内容を次々に分類していった。それにより、同じ話をするときも本社と店舗で視点を変えて言ってみたり、さらには発言が少ない人に話を促したりと、効率よく意見の見える化が行われていた。

水戸が加瀬の会議運営方法に感心している一方で、ひとつ問題が発生した。店舗から電話会議で参加しているメンバーが、会議に参加しづらいと言うのだ。それもその通りで、パソコンに映し出されたメモは後になって電子メールで送付されるのだが、議論にタイムリーには参加しづらい。では、本社に来ればよいではないかということでもなかった。彼らは自分の上司である店長から「成績に影響を出すな」という無言のプレッシャーを受けているようで、野畑も「本来の業務に影響の無い範囲内でやってもらう」と各店長に説明しているため、無理強いはできない。

解決案は単純で、インターネットを使ったテレビ会議システムを使う案が出されたが、「新しいものへの投資を会社は簡単に承認しない」ということを、メンバーの多くが口にした。
先程までの積極的だった議論とは打って変わって、珍しくマイナス思考の意見が多く出たところで水戸は目を細めた。新しいことには建設的な意見を出すが、現実的に目の前にある問題にはなかなか前向きな意見が出ない。「こうしたほうがいい」という答えが分かっていても組織の風土がそれを諦めさせて実行に移せないというのはよくあることだ。
<体育会系のノリもそうだが、他にも染みついた風土というものがありそうだな>

水戸は見えない風土をこの場に垣間見た気がした。
翌週の月曜日、水戸はさっそく山本にかけあった。しかし「情報システム部がなんというかなー」と首をかしげ、即決というわけにはいかなかった。

太陽リフォーム社内での稟議手順はいたってシンプルだ。発案者が起票し、関連部署に相談したうえ、発案者が所属する部署の部長名で立案、申請する。それを本部長が1次承認、専務の杉本が2次承認、社長の床井が最終承認する。100万円未満の事案については本部長が最終承認になっている。文房具、備品などあらかじめ認められたもので10万円以下の事案については部長の承認で事は済む。

フロー自体はシンプルなのだが、購入対象が目新しいもので、その利用が複数部署に関係したりすると必ず物言いをつけてくる人がいるのだ。中でも情報システム部が関係する場合は厄介だと感じている従業員が多い。
情報システム部はこれまで、様々な社内IT化を推進してきた。だが中には投資対効果がマイナスとも思える案件にも携わってきた。その度に「これは誰が申請したのか? 情報システム部はちゃんとチェックしたのか?」と叱られてきたのだ。
「承認したのは誰だよ」
情報システム部ではそんな愚痴がいつもこぼされていた。さらにシステムの導入後は社内のユーザから問い合わせが入るようになる。その数はシステムが増えれば増えるほど、情報システム部メンバーの負担となって跳ね返る。システムはちゃんと動いて当然、不具合があればクレームとなって、深夜や休日まで復旧作業を行うこととなる。情報システム課の平野課長が要員増強を要求するも、「まず業務の効率化を実施」として受け入れられていないのが実態である。
情報システム部が新しいシステムの導入に非協力的なのはこのためであった。
<さてと・・・、まずは平野さんか>
水戸は思い立ったように情報システム部を訪れた。

copyright (C) 2012 Noriaki Kojima. All rights reserved.
許可なく転載を禁止します。

↓ポチんと押してください

中小企業診断士 ブログランキングへ

↓こちらももひとつポチんと!
にほんブログ村 士業ブログ 中小企業診断士へ
にほんブログ村