企業変革 連続小説 「Break your shell」 04

■老体が全国行脚

翌週になって、総務・人事部長の小泉から従業員に通達が出された。それには「従業員全員と社長とでランチミーティングを行う」と書かれていた。
本社は課単位、店舗は店舗単位で行う。「日頃思っている業務上の問題や今後どうしていきたいかの思いを忌憚なく話してほしい」ということだった。それを見た従業員の反応はまちまちだったが、これは何かがあるという噂が立ち始めていた。

忌憚のない意見を聞きたいということで、社長には、直接業務上のつながりの無い監査室長の水戸が同行することになった。本社スタッフは山本に遠慮するだろうし、野畑や店長のいる場では、店舗の人間がなかなか本音は言えないだろうということは本人たちも納得していた。
北は青森県、南は福岡県と全国40拠点の店舗をまわるための調整は水戸が行った。本社の各課をあわせて30回を超えるランチミーティングを行うこととなり、さらに途中競合のホームライフ21の展示場を見学してみることにし、その期間2カ月を要することとなった。

床井は水戸にふたつの指示を出していた。ひとつはランチミーティングのメモをまとめること。もうひとつは「人材を見つけ出すこと」だ。具体的には、問題を本質的な視点で捉え、正しい熱意と危機意識聞をもつ人物をピックアップすることだった。

本社でのランチミーティングは、業務管理部の営業管理課、工事管理課、工事部のリフォーム商品課と工事積算課、情報システム部の情報システム課、その他の課と続いた。現場上がりで体育会系のノリのままにマネジメントを行う課長、新卒2年目にして悲観に満ちた者、隣の部署が何をしているかわからない主任、自分の評価に納得いかない係長、業務のやり方に不合理を感じている中途社員、まあなんといろいろな不満があるものだと、水戸はメモをしながら思った。しかしながら「それは何が原因なのだ?」「もっとのどに詰まったものがありそうだな」など、社長の床井自身がスムーズに従業員たちの不満の吐き出させていたことに、水戸は床井の懐の深さを感じていた。

店舗では、店長、工事担当、営業担当、営業事務が床井を囲んだ。業務の影響を小さくするため、店舗側の希望でお昼をちょっと過ぎた14時から行われた。そこでは「営業が書類をちゃんと書かない」、「半年前の工事内容を参考にしたいがすぐに探せない」、「見積もりに時間が随分かかる」、「図面通りに施工したはずが要求と違うといったクレームが多い」等々、床井は久々に現場の雰囲気を感じ取れる意見を耳にすることになった。さらには「本社スタッフの指示の意味がわからない」、「通達が一方的に来て納得のいかない作業がある」、「同じ資料をたくさん作っているが本当に必要なのか」といった営業事務からの意見を聞いて、床井は「山本の言っていた内容はこれか」と先日の会話を思い出すと同時に、ランチミーティングの手応えを感じていた。

福岡空港から本社に戻る飛行機の中、床井は水戸からメモを受け取った。メモは店舗と課ごとまとめられていて、会話の順に書きなぐってあるだけであったが、床井がそれぞれのランチミーティングを思い返すには十分な内容だった。時折メモをめくる手が止まると、床井は飛行機の小窓の外に目をやった。

「いい天気ですね」
水戸がそう言うと、少し間をおいて床井が質問ともとれるように呟いた。
「ああ。それ関門海峡だ。関門大橋が見えるな」
水戸は新潟出身で西日本の地理に詳しくなかったため黙っていたが、さらに独り言のように続けた。
「こいつらが橋になるかもしれんな」
一瞬、水戸は話がどうつながっているのか迷ったが、床井の言わんとすることが分かったような気がした。
「社長のご指示通り、組織の問題を本質的に捉えていると思える発言に下線を引いています。彼らのことでしょうか?」
「さすが、お前は監査室長を任されているだけあって察しがいいな」
「私を監査室長に任命したのは、床井社長ですよ」
「そうだったか、わっはっは」
静かな機内に、二人の笑い声が響いた。

「2カ月間お伴をさせて頂きましたが、そろそろ社長の狙いを話して頂いてもよろしい頃かと思っているのですが・・・。次は何をされるおつもりでしょうか?」
「当ててみてくれ」床井はまた小窓の外を見ていた。
しばらく考え込んだ後で水戸は答えた。ちょうどそのときキャビンアテンダントが回ってきて、床井はコーヒーを頼んだ。

「そうですね、次年度以降の戦略立案の材料でしょうか? 引越しも控えていますし、気持ちを新たにするには絶好のタイミングです。競合が随分と増えた今、店舗拡大戦略はこれからの時代、大きな利益をもたらさないかもしれませんからね。彼らの意見を基に次なる戦略を、ってところでしょうか?」
コーヒーが熱かったのか、床井の眉がハの字になった。

「話は変わるが、お前の生まれは新潟だったな?」
「えっ? はい、よくご存じで」
小難しい話をさせておいて、いきなり生まれた場所を聞いてくる意図は何なのかと、水戸は頭をフル回転させた。
「馬鹿野郎、社長が社員の個人情報くらい把握しておかなくてどうする?」
「さすがですね。すばらしい記憶力です」
「わしは甲斐の生まれだが、空から見る甲斐の国はいいいぞ。飛行ルートが南に逸れているのが残念だがな。真上を飛んでみたい」
「ああ、富士山ですね。あまり気にしたことは無いですが福岡から羽田のルートは富士山の真上を通るわけではないんですね」
機内紙に飛行ルートを記したページがあるかと思ってぱらぱらめくっていると、横から音が聞こえた。床井のいびきだった。
<まったくこの人は憎めないな>
そう思いながら水戸はちょうどよい熱さになったコーヒーを口にした。

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